糖尿病患者における目標体重と総エネルギー摂取量-糖尿病診療ガイドライン2019

糖尿病患者さんに食事指導をするときの「総エネルギー摂取量」の算定方法が、”少しだけ”変わります。

長年、医療現場で採用されていた食事療法の考え方を、新しいエビデンスの集積により変更する必要が出てきました。ここ数年、糖尿病学会の先生方が検討を続けてこられたようです。私は2018年秋に開催された学会員向けシンポジウム「再び日本人にふさわしい糖尿病食事療法を考える」に出席して、変える必要性や委員の先生方の熱意を感じて、糖尿病食事療法の新しい時代を想像しワクワクしました。その後も、学会員向けにパブリックコメント募集の案内があり、その都度コメントを送りました。

検討のポイントと考えられたのは

  • 標準体重(BMI22)を基準とするのは低い可能性:死亡率の低いBMIは、20-25と幅がある、また海外では実体重を基準としている。
  • エネルギー摂取量を算出する係数(kcal/kg)の値が小さい可能性:糖尿病患者のエネルギー消費量は、35-40kcal/kgという最新の報告がある。
  • 高度肥満者やフレイル予防の高齢者などに柔軟に対応する必要がある。

ですので、糖尿病診療ガイドラインにおいて食事療法がどのように変わるのかを期待していただけに、2019年秋に刊行された「糖尿病診療ガイドライン2019」は、ほんのりした変更という印象を持ちました。

糖尿病診療ガイドライン2019による変更点

  • 標準体重→目標体重
  • 年齢ごとに異なる目標体重を設定
  • 65歳未満:[身長(m)]2×22
  • 65歳~74歳:[身長(m)]2×22~25
  • 75歳~:[身長(m)]2×22~25※現体重に基づき、フレイル、(基本的)ADL低下、併発症、体組成、身長の短縮、摂食状況や代謝状態の評価を踏まえ、適宜判断する。

最も死亡率が低いBMIは20~25とされているので、これまでのように一律に22とするのは適切でなく、目標体重の個別化を図ることが必須の課題とされています。

エネルギー係数

  • 軽い労作:25~30kcal/kg
  • 普通の労作:30~35kcal/kg
  • 重い労作:35kcal/kg~

これについても、糖尿病患者のエネルギー消費量が35~40kcal/kgとこれまで考えられてきたものより大きい報告を引用したうえで個別化が重要であるとしています。

肥満糖尿病患者において、肥満の改善がインスリン抵抗性の改善につながることは明らかですが、そのために必要なエネルギー摂取量はまだはっきりしていないのです。エネルギー摂取量の評価の難しさを改めて感じます。

糖尿病患者の栄養食事指導―エネルギー・炭水化物・タンパク質摂取量と栄養食事指導(日本糖尿病学会コンセンサスステートメント)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/63/3/63_91/_article/-char/ja

糖尿病診療ガイドライン2019

http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id