春から仕事復帰のワーママへ:いま、必要とされるのは 幸せな「あきらめ力」

なぜ、ワ―ママに「あきらめ力」が必要か

日本の(世界の、かもしれないけれど)女性は、真面目にコツコツ頑張るタイプが多いです。幼少期から、サボりがちで何かとお母さんを頼りがちな男子を横目に、きちんと宿題をやり忘れ物をしないよう自己管理してきたのではないでしょうか。

そんな女子がワーママ(ワーキングマザー)になったら、仕事に家事に育児に、一人の人間が対応できるレベルを超えた事態に直面します。結果として、仕事を辞めて育児に専念することになったり(それも幸せ)、大きなストレスを抱えたまま両立を模索する日々を送ったりするでしょう。

もちろん解決策として、パートナーとの家事育児に対する適切な分担とか、家事育児の外注などを考えていく必要があります。

それと同時に、心の持ちようとして重要なのが「やらないこと」を決める、つまり、どこかを「あきらめ」てよいのだ、と自分を許してあげることだと思います。「きちんとやりたい」という思いが強い女性ほど、簡単ではないと思います。私もこう見えて(?)全部きちんとやりたい人なので、とても難しいです。

しかし、人生で幅広い経験をし、大きな成功をおさめていそうに見える女性は、いい意味で少しずつ「あきらめて」いるのだろうと推察します。なぜなら、どれだけ優秀でも何もかも完璧にできる人はいないでしょうから。

一般に「あきらめる」のは否定的に受け取られがちですが、それにより道が開けてくることもあります。その折り合いをつけられるかどうかが、長い目で見て、幸せに仕事を続けていくうえで欠かせないと感じます。ですから、私も折々で自分との対話をするようにしています。

やらないことを決める

現実には「あきらめる」のは、仕事であったり家庭のことでもあったりしますが、仕事上で自分と折り合いをつけるにあたり、参考になる本を読んだので紹介します。「やらないことを決める」大切さを2冊には書かれていて、そのことについて改めて考える機会になりました。

『コンサル一年目が学ぶこと』(大石 哲之、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014)

その参考文献として紹介されていた

『得点力を鍛える―「やらないこと」を決めて努力を最適化する技術』(牧田幸裕、東洋経済新報社、2012)

指導教員・上司に恵まれた

私は非常に運がよい人間で、といっても、くじ運がよいわけではなく、とにかく人生の岐路で出会う人たちにとても恵まれています。大学・大学院で臨床栄養学を教えてくださった、高名で尊敬できる指導教官に出会えたことで、栄養学で生きていくという人生の目標や楽しみを見つけました。それが、私という人間の核になっているのは間違いありません。

さらに、新卒で就職した際に、管理栄養士としての基礎を叩き込んでくれた元上司からも大きな影響を受けました。そのことは、時間が経ってから気づくことも多いです。いわゆる「上司ガチャ」に当たったということになるでしょうか。

以前に、ひろゆきさんのYouTubeで、会社員が出世するかどうかは新卒時の上司により決まるという調査結果を聞いて「さもありなん」と腑に落ちたことがありました。(ひろゆき.「最初の上司」で会社員人生の9割が決まってしまう残酷な理由. ダイヤモンドオンライン. https://diamond.jp/articles/-/286128. 2021)

新卒時の上司から学んだこと

元上司は、私が所属していた大きな組織において、管理栄養士としてこれまでの慣例を打ち破った職位に就いただけではなく、その後退職されて、別の組織で重要な役職に就き、余人に代えがたいお仕事を成し遂げられています。そのような上司に新卒時に出会い、ともに机を並べて、仕事の進め方を間近で見られ、それが自身の標準初期設定にできたということがとても幸運でした。

・仕事が速い。すぐに仕事を片付けてあるので、突発的な仕事の依頼や緊急事態にも余裕で対応できる。

・期待以上の仕事をするために、いつも工夫、改善を重ねて考えている。

・周りへの配慮、サービス精神が旺盛、様々な対応がスマート。

この他にもたくさん思い浮かぶところはあるのですが、最も印象的だったのが「注力すること、やらないことの区別」「成果を得られるところにエネルギーを注ぐ」という判断でした。職場には人員的な制約もあり、やらなくてはいけないこと、要望されていること全てをできるわけではありません。そのようなときに、「この仕事は一定の水準までは達成するが、それ以上は注力しない」「ここには特に注力する」という判断をされるのですが、「特に注力する」とした仕事がことごとく評価されます。つまり、自分や組織のもっている力をどこにどう配分すれば、評価が最大化されるかを部門の管理者として判断して仕事を進めるのです。

今、私がわずかながら成長して、元上司を振り返ると、すごい能力だと感じるのですが、実際に部下だったときは、必ずしもそうとばかり感じていたわけではありません。部下の私の考えに上司と相違があり、自分としてより注力したい仕事に取り組めないことにフラストレーションを感じたこともありました。

やはり大切な「やらないことを決める」力

しかし、この判断力は、私が子育てをしながら大学教員として働くようになってから、つまり、上司と出会ってから10年以上たってから生かされました。独身時代は、自分の時間全てを仕事に注ぎ込める状況でした。残業しても何の支障もないし、終業後も土日も研修会に参加することもできるし、依頼原稿を執筆することもできました。しかし、子育てと両立していくには、それでは支障がありまくりです。限られた時間、労力という私が持つ限られたリソース(資源)で、仕事の責任を果たし、子どもを生かせていかなければいけないわけです。

その時に、私にとって支えになったのが、元上司が仕事を進める中で当然のようにやっていた「判断」なのです。重点的に資源を投入するものとそうでないものを分けるということ。(ちなみに、上司や組織の名誉のためにいうと「それ以上は注力しない」と判断した仕事についても、標準以上のレベルは担保していました。ちなみに、私も同様です。)

自分にとって、どの仕事に資源を投入すると成果が出て、差別化できるか、価値が出せるのかということを精いっぱい考えて、取り組むことができました。そういう意味で、子育てと仕事の両立により、自分自身の限界を認識し、その仕分けをする決心がついたということかもしれません。人間はパーフェクトで何もかもできる人はいないわけですから、このような思考がとても重要と、今では考えています。

一橋大学大学院教授の楠木健先生は経営戦略がご専門ですが、企業の戦略を考える際に重要なのは「何をやるか」でなく「何をやらないか」を考えることだと仰っていました。そして、それはリソースが限られた企業の方が決断がしやすく有利だとも付け加えられていました。個人でも企業でも通ずるものがあるのだと興味深かったです。

「やらないことを決める」という重要性は、昨今、よく言われるようになり、そのようなテーマの本もとても多いようです。そのようなことを、新卒時に自然と感覚的に、経験的に身に着けることができたという意味で、やはり幸運だったと思います。

春からワ―ママのあなたへ

若いワ―ママには、完璧じゃなくてもいいんだよ、ということを伝えたいです。

自分に優しく、子どもにも優しく、新生活をスタートできるよう応援しています。