腎臓とリンとの関係を学ぶ【CKDに関わる人必読】腎臓が寿命を決める(黒尾誠、幻冬舎、2022)

私と腎臓との関係

私の腎臓との強烈な出合いは、大学時代に、昭和大学藤が丘病院腎臓内科の故出浦照國先生が大学で講義をしてくださったことです。卒業生や教授とのつながりで、各分野の専門家の先生が徳島まで来て講義してくださる特別講義は、とても興味深かったことを覚えています。そのなかでも、出浦先生の、低たんぱく食により慢性腎臓病の進行を抑制して透析導入を遅らせるという臨床と研究のお話には鳥肌が立ちました。一般的に各種疾患における栄養療法は、低下した臓器の機能を補うために食事のとり方を修正するという補助的な存在であると感じていましたが、慢性腎臓病における低たんぱく食療法は、治療そのものであり、その効果がインパクトのあるものと感じたからです。全国から出浦先生の外来を受診するために飛行機で通院する患者様への丁寧な診療、そしてその成果を論文としてまとめる研究者としての姿勢のともにすばらしいと感じました。

そののち小児専門病院に就職して、低たんぱく食に携わりたいと息巻いていましたが、私が就職してから数年間は腎臓内科の先生が不在であったこと、また、そもそも小児腎臓病では患者の成長やストレスを考慮して低たんぱく食療法は行わないと知って、少々がっかりしたものでした。

そして、その後進学した大学院では、糖尿病の食事療法をテーマに研究に取り組んだのですが、40名ほどの大所帯の研修室はいくつかのチームに分かれていて、他のチームでは腎臓に関わる基礎研究から臨床研究までおこなっていました。その時に初めて聞いたのが、「FGF23」「クロトー遺伝子」です。今から20年前のことです。セミナーや論文抄読会では、毎回聴くような最重要キーワードでしたが、自身の研究とは直接の関係のないことから、深く学ぶ余裕はありませんでした。

現在の職場(大学)でも、腎臓病の範囲の教育は担当していないことから「腎臓」は、長年私にとって近くて遠い、なかなか距離を縮められない存在でした。

腎臓との急接近

そんなとき、堀江貴文さんのホリエモンチャンネルで、自治医科大学の黒尾誠先生と対談されている動画を見ました。

いつも研究室で聞いていた「クロトー遺伝子」を発見されたのが黒尾先生と聞いて、“そうなんやー”と思わず声が出ました。長年の知り合いが急に恋愛に発展しそうな状況になったドキドキ感といいますか。対談のベースとなっていた書籍が『腎臓が寿命を決める(黒尾誠、幻冬舎、2022)』です。

この本では、腎臓が老化の進行に大きな影響を及ぼすこと、腎臓の働きやクロトー遺伝子、FGF23についてもわかりやすく解説されており、ぼんやりとは知っていたことをきちんと理解できたように思います。

そして、この本の最も重要なのは栄養素(ミネラル)の「リン」が腎機能低下や慢性腎臓病を進行させる主役であることを教えてくれることです。管理栄養士は、腎臓に関する栄養素といえばたんぱく質や食塩が思い浮かべます。もちろん、透析になれば、血中リンのモニタリングや摂取量の調整が重要であると知っています。しかし、いずれも脇役級の存在と思っていることが多いでしょう。この本では、その認識を打ち破り、まさにリンが腎臓の主役級に上り詰めてきます。血中リンが高くなるなら、リン吸着剤(薬剤)を使って尿から出せばいいじゃん、と思いがちですが、尿中リンが多くなるのもよくないそうです。“そうなんやー”が2回目です。

腎臓を守るためのリン対策

ではどうすればよいかというと、リンの摂取量が多くならないようにすること。ご存じの通り、食品中のリン含有量は、食品中たんぱく質量に比例しますから、肉、牛乳、プロセスチーズなどを摂りすぎないこと、また添加物には無機リンが含まれていることから、加工食品の摂取量を減らしていくことが重要です。わたしは、数年前から超加工食品と健康との関連を調べているため、超加工食品を摂りすぎないことは、腎臓の保護にもつながるのだと気づき、「加工食品とのかかわりが健康を左右する」という私の仮説を指示する情報になると考えました。

最後に、重要なのが体を動かすこと。血中リン・尿中リンを高くすることが腎臓を傷めることになるならば、どうしたらよいか。そうです、リンの倉庫である骨の中に閉じ込めておけばよいのです。身体を動かすことで、リンが骨に吸着してくれるというわけです。このメカニズムを知って、座位時間が長い人は寿命が短いというデータの機序の一つが理解できました。

健康のための普遍的な原則に終着するのが興味深い

結局、健康のためには「食事」と「運動」が重要であることに行き着くのだと思いました。

食事と運動(そして休養、社会的なつながり)は、どのような疾患、健康問題に対しても関係する、最も基本的なことです。

新書だけでなく、図解の単行本も発売されたようです。ぜひ読んでみてください。腎臓に対する見る目が変わります。