現場発研究の面白さとやりがい 管理栄養士編

管理栄養士の生きる道の礎となる思想

管理栄養士も研究をして論文を書いて科学的なデータを出すべきだ!

それによって、栄養学を一流の科学にすることができるし、栄養学という学問を扱う専門職である管理栄養士の地位が向上するのだから。

と、出身大学の先生達に繰り返し聞かされてきました。そのような「思想」を教わったことが、その後のキャリアの礎となり、行動を決定するときの基となっています。

その後、この「管理栄養士も研究して論文書かなあかんで」という思想に対する反論があることを知りました。それは「まず、論文を読みこなすことが先である(それができたうえで研究実施・論文執筆なのだから)」というものです。

確かに、論文を読んで臨床に活かすということが十分にできていない現状も散見しますので、まず読めないと始まらないーという意見に賛同します。さらに、学会などでの研究発表をみても、先行研究の調査が不十分だったり、考察のための文献考察ができていないということがあるからです。このようなケースでも、研究をするのは大切だけれども、論文をしっかり読むことの重要性をまず理解する必要があるでしょう。

しかし、その反論があったとしても、研究する管理栄養士が不要ということにはなりません。

論文を書くつもりで就職した先は、厨房

若者だった私は、新卒で病院に就職し「給食課」に配属され、病棟からかかってくる電話では「厨房ですか?」と聞かれました。

研究をして論文を書くことを目指して就職したのに、私は事務部門「課」に所属し、給食を厨房で作ることが求められてるのだーという現実を目の当たりにしました。実際、病院勤務の管理栄養士の売り上げは、病院食提供によるものが大部分を占めています(あなたの給料は、給食管理によって支払われている、と教わった)。まずは、しっかり給食管理をできるようになろうと仕事に励みました。

丸2年が経って、一通りの仕事ができるよう(な気分)になったとき、「管理栄養士も研究して論文書かなあかんで」という言葉がむくむくと沸き上がってきて、食物アレルギー患児さんの食事摂取量調査とQOL調査をおこないました。これが私にとって初めての学会発表でした。とても論文を書くところには至らず、自分の実力不足を思い知り、この経験が大学院進学のきっかけとなりました。

大学院で研究をすすめる羽を得て、再び臨床現場へ

大学院で学んだこと、得たことは以下の記事に書いています。

大学院では研究の進め方、学会発表の作法、論文執筆の技術を得て、研究を遂行する(小さいながらも)羽を手に入れたように感じ、うれしかったことを覚えています。

博士前期課程を修了し、現場に復帰した後は、小児病院における栄養評価法に関する検討や心疾患乳児の栄養評価など、臨床現場からのデータ発信を進めることができました。近隣大学から大学院生を研修生として受け入れており、有能な彼女らがデータ整理をぐいぐい進めてくれるという幸運もありました。

そのデータを基に書いた論文が

A Taniguchi-Fukatsu, et al. Effect of a high density formula on growth and safety in congenital heart disease infants. Clinical Nutrition 5(6), E281-E283,2010(先天性心疾患乳児の成長と安全性に関する高密度ミルクの効果)

というものです。先天性心疾患乳児は食欲不振・哺乳不良がみられる一方で心運動負荷の大きさから消費エネルギーが多いため、エネルギーバランスがマイナスに傾きます。少ない容量で多くのエネルギー・栄養素を投与するためには、それまでいくつかの方法がとられていました。たとえば、通常ミルクにMCTオイルを添加したり、わずかにエネルギーが高い低出生体重児用ミルクを用いたりする例がありました。

しかし、通常ミルクを標準的な濃度より高い濃度に調製することで、余分なコストを足さずに、ミルクに含まれるすべての栄養素の摂取量を増やせることから、この方法を私は臨床現場で推奨しており、その効果や安全性について検証して論文にしたものです。

世界中で栄養管理に汗をかく人たちとのつながりを感じる

Researchgateという研究者のSNSでは、自分が発表した論文を他の研究者が引用した場合、お知らせがあるのですが、この論文に関して海外の医療者から引用されたり、レビューに取り上げてもらうことが定期的にあります。

先天性心疾患の栄養管理という限られた分野で世界中で尽力されている医療従事者を身近に感じ、そのような方々に論文執筆に際し参照してもらえるということに心から喜びを感じます。

論文執筆というのはコミュニケーションのツールなのだーということを、学ぶことができた一報です。

給食管理や栄養管理に追われるなかで、研究のための時間・エネルギーを確保するのは簡単ではありませんが、興味のある人にはぜひ挑戦してもらいたいです。厨房から世界のドアを開きましょう!

めざせ、給食のおばちゃん兼研究者の道!