「食べる」ことの哲学を始めよう:食べるとはどういうことか
栄養素を摂取するということは「食べる」ことの一要素であり全てではない
ということを改めて考えさせられる本を読みました。
藤原辰史、食べるとはどういうことか: 世界の見方が変わる三つの質問、農山漁村文化協会(2019)
著者の藤原氏は、「ナチスのキッチン」や「戦争と農業」など歴史のなかにおける農業や食に関する研究をテーマとされている京大の研究者です。
この本は、著者と小中高生8人との座談会でのやり取りを中心に構成され、その間に解説が入っているとても読みやすい本です。
座談会は、
「今まで食べたものの中で一番美味しかったものは何ですか」
という質問から開始されます。
この質問は簡単なようでいて、答えるのはとても難しい。それはなぜか、というところから読者を引き込みます。
著者は、食べることはネットワークに絡めとられていると説明します。
1.時間のネットワーク
食べることは一瞬で終わるのではなくてある程度の時間の中の持続的な営みである。種から育てたトマトを収穫して食べるという時間の流れがあります。
2.人のネットワーク
食べるとは一人ぼっちで完結する行為ではないということです。一緒に食事をとる人や食事を提供するお店の人、あるいは食材を作った人など他人が絡んでくることが多いです。
3.感覚のネットワーク
味覚だけではなく様々な感覚が一緒に働く行為であるということ。匂いや天気、食事をした建物の空間など様々な環境が食べ物と結びついています。
食べるということは色々な関係性の網目の中に絡み取られているもので、食べるということだけを切り離すことができない行為なんですよね。
管理栄養士が食べることについて考えるとき、栄養素をとることを中心にとらえることが癖になっていますが、
栄養指導をするにあたっては、その対象者の食べるということをさまざまな時間や環境、感覚などを想像しながら指導することが必要になってくるということです。
管理栄養士養成課程の学生に対する教育を考えるにあたっても、栄養素の働きや代謝各種疾患の治療ガイドラインなどは勿論大切ですけれども
食べるということを哲学することも欠かすことができないと思います。