低炭水化物食(糖質制限食)をまとめたナラティブレビューが掲載されました

2022年12月、『日本栄養士会雑誌』に、低炭水化物食を課題としたレビュー論文が掲載されました。

深津章子, 宮本佳代子, 諸澤美里, 大久保研之, 池本真二.低炭水化物食の理解と実践-栄養指導のためのナラティブ・レビュー-. 日本栄養士会雑誌 65(12) : 25-33, 2022

2013年に科研費を取得して以来、低炭水化物に関する研究を進めてきました。

ちょうどその頃は糖質制限食に注目が集まって、日本糖尿病学会も「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言~糖尿病における食事療法の現状と課題~」というステートメントを出したところでした。また、2013年に発刊された「糖尿病食事療法のための食品交換表第7版」でも、炭水化物比率を3段階設定(50%, 55%, 60%)するなど、糖質制限食ブームに対応したかたちとなっていました。

あれから10年経ち、大きな低炭水化物食ブームは収まったように見えますが、決してその考え方がなくなったわけではなく、むしろ浸透して、一般の食事として馴染んでいるように感じます。「糖質オフ」という用語も、特別なものでなくなってきているようです。

そのような今だからこそ、改めて、管理栄養士が低炭水化物食をどうとらえて、低炭水化物食を実践している対象者に対してどう関わっていくかを考えることは重要です。

ある大学病院の管理栄養士の先生に、低炭水化物食をどう指導しているかをお聞きしたことがあります。お答えとしては、積極的には指導しないけれど、患者さんが低炭水化物食の実践を希望する場合、その動機付けを生かすために支援する指導をするとのこと。ただし、検査値等から低炭水化物食のネガティブな影響が危惧される場合は、注意点をお伝えしていると仰っていました。とても重要な考え方だと思います。

私たちの研究グループは、これまで

低炭水化物食を摂取後の代謝反応にどのような影響があるのか

2週間連続して摂取した場合にはどのような影響があるのか

低炭水化物食を指導した場合の長期的な効果はどうか

というように、低炭水化物食の短期的な反応から長期的な影響まで幅広く取り組んできました。その成果は以下の論文にまとめています。

低炭水化物食がセカンドミール後の血糖反応に及ぼす影響.深津章子、宮本佳代子、大久保研之、池本真二.プラクティス 35(3) : 336-341, 2018.

若年女性において低炭水化物食に伴う高脂質摂取はセカンドミール後のインスリン抵抗性を惹起する.深津 章子, 宮本 佳代子, 大久保 研之, 池本 真二.糖尿病 61(10): 378-385, 2018.

肥満者における緩やかな炭水化物制限に脂肪酸の指導を加える影響-実践的な栄養指導プログラムの検討-.深津章子, 諸澤美里, 宮本佳代子, 大久保研之, 池本真二. 日本臨床栄養学会雑誌 41(2): 152-163, 2019.

肥満者における炭水化物制限指導プログラムによる減量効果の持続性.諸澤 美里 深津 章子 大久保 研之 池本 真二. 聖徳大学研究紀要 30: 125-132, 2020.

低炭水化物食におけるたんぱく質量の違いが食欲に及ぼす影響.深津章子、宮本佳代子、大久保研之、池本真二.日本臨床栄養学会雑誌 42(2): 220-226,  2020.

緩やかな低炭水化物(40%E)の夕食が、若年健常女性の糖・脂質代謝に与える影響.深津章子, 宮本佳代子, 大久保研之, 池本真二. 日本病態栄養学会誌 accepted 2022年3月

その中で、数えきれないほどの世界中の低炭水化物食に関する論文を読みましたので、それらを整理して雑誌を通して共有できればと考えました。本論文は、システマティック(系統的)レビューではなく、ナラティブ(記述的)レビューとなります。

*システマティック・レビューは、ある研究課題を扱う先行論文を系統的かつ再現可能な方法ですべて調査し、レビュー形式でそれらの論文の結果を批評的に評価・分析します。メタ分析などがこれにあたります。対して、記述的レビューは参考にする先行論文の抽出が網羅的でなかったり偏向したりする可能性があり、エビデンスレベルが低くなります。その分、レビューを書く際のオリジナリティやわかりやすさが重要となります。

第1パート: 論文をどのように読みこなしていけばよいのかという勘所

第2パート: 低炭水化物食のベネフィット(利点)とリスク(危険性)

第3パート: 低炭水化物食を栄養指導する際の注意点について

低炭水化物食の理解と実践-栄養指導のためのナラティブ・レビュー-. 日本栄養士会雑誌 65(12) : 25-33, 2022

特に若手の管理栄養士さんには、第1パートを読んでほしいと思っています。先行研究論文を参照する際にどのように探せばよいのか、論文を読むときに研究デザインを把握し、対照群や方法はどのように設定されているかを押さえたうえで読み進めることが大切です。さもなくば、結果だけ見たとしても、その研究報告を誰かに説明できませんし、臨床に活かすこともできません。

どのような方法で研究された結果がどうだったのか、さらにそれに対してどう考察されて結論が示されているのかを理解することが大切です。そのあたりを丁寧に説明しながら、多くの論文をレビューしたつもりです。興味がある引用論文があれば、せめてアブストラクト(要旨)だけでも読むとよいと思います。

*検索は、世界の主要医学系雑誌等に掲載された文献を検索することができるPubMedから。

第2パートのベネフィットとリスクについては、一般に認識されていることの範囲を超えるものはあまりありません。ご自身の知識を確認する意味で、引用文献と照らしながら読んでいただけると嬉しいです。第3パートは、栄養指導の際に生かせることをまとめてあります。ぜひ、知識の整理にお役立てください。

ここから全文が読めますので、ぜひアクセス・ご覧いただけると嬉しいです。