『小児栄養のトリセツ(金原出版、2024)』

臨床栄養分野でも、社会資源が小児から高齢者へ移行!?

少子高齢化に伴い、社会資源が高齢者に対するものに重点化されるのは自然なことですが、小児領域への注力が低下しないかということの危惧を持ち続けています。そのようななかで、令和5年にこども家庭庁が発足したのは嬉しいニュースでした。

臨床栄養分野においては、高齢者分野の学会活動の活況ぶりや次々と発表される学術論文やガイドライン、さらには各食品メーカーが発売する高齢者向けの栄養補助食品などの情報に触れる機会が年々増えています。子どもの数が減るのにともない、小児栄養分野における資金や人材の投資が減少し、より良い栄養管理や栄養指導の開発のスピードが低下してしまわないのかが気がかりですし、少ない子どもを大切に育てる時代になっているのに、それに対応できる状況が維持できるのでしょうか。大学で管理栄養士・栄養士の教育をおこなううえで、このようなことを学生に話し、小児領域への関心を高めようとしています。

小児臨床栄養分野から、画期的な書籍が出版

しかし、かくいう私自身が、小児栄養の臨床現場から離れており、それについて後ろめたさを感じています。臨床現場で、小児臨床栄養の実践と研究をレベルアップし、粘り強く活動を続けている仲間たち(と思っています)との交流を通して、いつも尊敬の念を抱いています。今も、オンラインでの勉強会や資格認定関係の仕事に声をかけてくれる懐の深さに感謝の思いでいっぱいです。

小児臨床栄養の現場から離れた私にとっての幸運は、小児病院を退職したときに私のそれまでの仕事を引き継いでくれた管理栄養士さんがいたことでした。引き継ぐどころか、さらに発展して、勤務していた小児病院における栄養管理の地位を確立してくれたのが、鳥井隆志氏であり、今回新たな小児栄養の書籍「小児栄養のトリセツ(金原出版、2024)」小児栄養のトリセツ | 笠井 正志, 鳥井 隆志 |本 | 通販 | Amazonを出版されました。

「小児栄養のトリセツ」おすすめポイント

1.秀逸な章構成

手に取ったときに本が薄く感じますが、それはシンプルに書かれているからです。著者も「はじめに」のなかで、詳しく書きたいのをぐっと抑えた、と述べています。

これまでの本は、総論→各論といった教科書のような章立てをし、疾患ごとの栄養管理を解説するものが多いです。しかし、本書では、実際にどんな問題があるかを説明してそれへの対応や解決方法を説明しています。特に、chapter3「食べない・食べられない・食べ過ぎる」問題へのアプローチは、昨今の臨床現場での課題を取り上げた、興味深い章だと感じます。子どもに関わる人なら感じたことがある問題に共感してから読み進められるのが新鮮です。

2.「じゃあ、どうしたらいいの?」への答えが書いてある

一般的に書籍に書かれていることは、いざ実践してみようとすると、やり方がわからないことがありますが、この本は違います。私が以前に取り組んでいた高濃度ミルクについても、スケール(調理秤)を使う、添付スプーンを活用する方法を説明して、実際の指導方法が手に取るようにわかります。直接教わっているような感覚で、すぐに実践につながるでしょう。

改めて、医療における食事・栄養の意義

表紙カバーのメッセージに心をつかまれます。

子どもの「食べない」に悩みつかれたお母さん・お父さんがすがる最後の砦が小児科。そんなとき「医学的視点」に加えて「栄養学的視点」も踏まえて話をしてあげることができれば、診察室の空気はもっと軽くなる

『小児栄養のトリセツ』表紙カバー

私も、これと似たようなことを、日本小児循環器学会 第14回教育セミナーAdvanced Course(2016)で、小児循環器科医師向けの講師を務めさせていただいたときに、お話ししたことがあります。お母さん・お父さんは治療のことは先生方にお任せだけれども、食事や栄養のことは親の範疇だからしっかりしないと、と抱え込んでつらい思いをしていることがある。診察の中で食事やミルクのことを先生方が気にかけてくださったり、管理栄養士に関わらせてもらったりすることで、お母さん・お父さんの気持ちは少し楽になると思います、ということを。

昨年、がん化学療法における糖尿病管理をされている先生とお話ししていたときにも、管理栄養士に栄養指導をしてもらうと、その後の診察室でのやりとりがスムーズに進むと仰っていました。食事や栄養は医療において脇役ではあるけれど、患者さんにとっては大切な日々の営みであり、医師がそこに関心を持つことで本来の医療もより良いものになっていくのではないかと考えています。そんなことを改めて考えさせてくれた、この「小児栄養のトリセツ」ぜひ手に入れて、活用してください。