質的研究論文を読む!炎症性腸疾患の患児と家族の食事戦略
質的研究は定性的研究とも呼ばれ、量的研究とは性質が異なるものです。
栄養学研究の多くは「量的研究」であり、食事や栄養素、栄養成分の摂取量と生体バイオマーカーの値との関係をみます。
一方、質的研究は、対象者の行動や経験を言葉で分析、説明するものです。
子どもの炎症性腸疾患に関する質的研究論文を見つけました。
●Dietary strategies and food practices of pediatric patients, and their parents, living with inflammatory bowel disease: a qualitative interview study(炎症性腸疾患とともに生きる患児と家族の食事戦略と実践)
カナダで、28人の子どもと、27人の保護者に個別にインタビューをしました。患児は9-17歳で、発症後4-11年が経過しており、5人が潰瘍性大腸炎で23人がクローン病でした。
インタビューの結果、食事の戦略と家族の食事実践という2つのテーマが同定されました。
食事の戦略として、次のことを実践していました。
- 症状悪化の引き金になる食品を避けるようにする。
- 症状悪化の引き金になる食品を食べすぎないようにする。
- 健康的な食事をとる。
過去に症状が悪化したという経験により、食べなかったり食べすぎない食品をきめている。でも、時々それが難しい。食塩や油、砂糖を多く含むような「健康的でない」食事を避けて、野菜や有機食品をとるなどの健康食をとるようにしている。
家族の食事実践として、次のことが挙げられました。
- 炎症性腸疾患が食品の買い物、食事計画、調理に影響を与えていること
- 家族にとって変わらない日常生活を維持すること
家族は、「患児だけが食べられない」という状況を作らないように、患児が食べられない食品は家族も食べないようにしており、家族の食事へ影響を与えていることがわかりました。子どもの食事の指導をすることは、その家族への影響も考慮しなければいけないことに改めて気づきました。
対象者の話した内容を話し言葉で記述してある部分があります。ステーキが食べられない患児に合わせて家族はステーキを食べていませんでした。しかし、患児はたまには父親が食べたいのをわかって「食べてもいいよ、私泣かないからね」と言ったという記述がありました。こちらが、泣けます。
栄養指導していたときに、患者さんから聞いていたような内容が整理されていて、感じ入るものがありました。
質的研究というのは、対象者が経験したことを似たような経験をする人に役立たせるものなので、小児慢性疾患の研究にぴったりな研究手法だと思いました。