栄養素の作用を調べることだけが栄養学ではないこと【おすすめ本】

栄養学研究に対して、ずっとモヤモヤしていたこと

栄養学は、生理学や生化学、食品学、家政学などから派生していますが、実験系の生化学や食品学が大きな影響を及ぼしています。

実際、栄養学を専門としない方は「栄養学=食品学」と認識されているかたが多いと思います。

ある食品や、ある栄養素、それらが代謝経路のある部分にどのように作用するかなどといった、非常に細かい検証が積み重ねられてきました。そして、ある成分が具体的にどのように影響するかということをクリアに明らかにすることが、科学性が高いとされてきたのも事実と思います。

しかし、人が食事をとるということは、複雑な栄養素を雑多に一緒に食べているわけで、一つの栄養素が単独にどのように作用するかだけがわかっても、それが全てではありません。つまり、栄養素は相互に影響しあったり、体の状態によっても影響が異なってくるわけです。

ですので、栄養学はもっと大きくとらえて考えなければいけないと思っています。

私が、博士の学位をとるときの研究は、栄養素の研究ではなくて、食事の組み合わせに関する研究でした。

その研究に対するコメントがずっと心に残っています。

「食事全体でみると、何の食品や成分が影響しているのかがわからないし、この食事の組み合わせでしか言えない結果となってしまうので汎用性がない」と。

確かにそうですが、いろいろな食品が組み合わされて調理した「食事」としての研究も重要だと考えていた私にとっては、残念なことでした。

自分がやろうとしている「人が食事を食べることを調べる」というおおざっぱな研究は、一つの成分が一つの代謝過程に及ぼす影響を緻密に調べる研究に比べて科学性が低いのだろうなという劣等感なようなものを抱えることになったのでした。

ですから、その後、栄養疫学者の佐々木先生がご著書2冊のなかで↓、私のその研究を引用して「食事全体としてとったときに身体に及ぼす影響を知っておくのは重要である」と書いてくださったことにとても感激しました。

佐々木敏のデータ栄養学のすす

●佐々木敏の栄養データはこう読む! 第2版

栄養学劣等感の私の前に、現れた本

長年、栄養学に関して引っかかっていたことが、ある本を読んで解けたような気がしました。

その本は、こちらです。↓

T.コリン.キャンベル ハワード.ジェイコブソン, WHOLE がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学, ユサブル, 2020

wholismreductionismの考え方を知る

著者は、栄養学を細かく調べることをreductionism、全体でみることをwholismと説明します。

どちらのほうが優れているという優劣はないが、大切なのはreductionismを寄せ集めても、全体にはならないという考え方です。

全体は全体としてみる必要があります。このホーリズムとリダクショリズムの考え方は、全体主義と還元主義として、哲学の世界で用いられています。

著者は、生化学の専門家であり、はじめはリダクショリズムの考え方に基づいて研究していたが、ホーリズムの考え方に変わっていったということにも強い印象を受けました。栄養学に関しても、全体としてみていくことが大切という著者に励まされました。

これからの日本の栄養学への期待

しかし、論文を書くにあたっては、できるだけクリアな論旨が求められます。

食事を全体としてとらえる研究はどうしても、メカニズムがはっきりせず、推測で考察しなければいけない部分もでてくるため、論文を書くのが難しいですし、査読者に厳しくコメントされることも多いです。

もしかすると、「1食の献立」という考え方も、リダクショリズムであり、食パターンや食習慣にように、さらに広く食をとらえていく必要があるのかもしれません。

日本においても、食事を大きくとらえて研究する手法や論文の書き方が広まってほしいですし、私も知識と技術を磨いていきたいと思っています。