確かに!主体性を教える、という矛盾【おすすめ本】

大学教育で(大学だけではないようですが)、アクティブ・ラーニングの必要性が訴えられるようになって久しいです。

講義一辺倒の授業ではなく、演習形式それもグループワークを取り入れることなどが、アクティブ・ラーニングの一つの方法として用いられています。PBL(problem based learning)などの問題解決型授業が代表的な例ですね。

教える立場からすると、学生には知識を受け取るだけでなく、自ら興味を持ち、主体的に学んだり考えたりすることを期待するわけです。しかし、授業の形式を変えたところですぐに効果が出るというものではありません。

そんな時に出会った本がこれ。

岩田健太郎著 主体性は教えられるか 筑摩書房 2012年

岩田先生といえば、ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウィルス感染症の感染管理の問題点について、You tubeで世界中に発信し話題になった神戸大学の教授です。その後、感染症に限らず、教育やいじめ問題、食べ物(これはまだ読んでない!)、タイムマネジメントなど幅広い著書があることを知りました。

本は、非常に優秀で熱心、勤勉なのだけど「主体性のない」研修医の話から始まります。

受験競争の覇者である医学部生であっても(だからこそ!)、主体性が育まれていないことがあると。つまり、受験に勝つためには、大量に知識を吸収し、それを試験で吐き出すーということが必要で、そこに主体性は必要でなくむしろ、主体性が効率低下の原因になる可能性があるのですね。

大学の偏差値によらず、現代の学生に似たようなことがあるのだと興味深く読みました。一方で、著者は「昔はよかった。昔の学生は主体的だった」という論調にも釘を刺しています。表現型が教員に伝わりにくいだけで、学生は考え主体性を持っているという指摘には私も同意します。

私の大学生活を振り返っても、決して主体性をもって勉強したという自覚はありません。先生から購入するよう指示されている教科書以外に、その科目に関連する書籍を購入する同級生を見て驚いたくらいです。教えられることを「そうなのか」と、素直に受け取っていたように思います。

大学時代に、自分なりに一生懸命勉強して楽しかったと覚えている課題があります。

管理栄養士の先生のもとで学ぶ病院実習のほかに、医師について栄養管理や医学を学ぶ病院実習がありました。そこで、公立病院の新生児科に配属されて、ベテランの先生と若手の先生が指導してくださいました。未熟児(低出生体重児)の分厚い黄ばんだカルテをお借りして、出生から退院までの栄養管理を輸液やミルクの栄養価を計算しながらグラフにし、経過とともにまとめました。

夢中になってサマリーを作った記憶があります。いい成績をとるため、とか、いい発表をしたいため、とかではなく、本当に興味をもって学びたいというものに出会わなければ、真のアクティブラーニングは達成できないのでしょうね。

病院管理栄養士として働き始めたあとも、上司や先輩から教わることに疑問を持つということがなかなかできませんでした。休職して大学院に進学した時、多くのディスカッションを通じて、また自分の研究テーマとガチンコ向き合うことで、考えることができるようになったように思います。

大学教育に携わって、まだ7年と少し。学ぶ、教えるとは何か?ーという問いの答えにまだまだたどり着けません。私も、主体的に主体的に学ぶということを考えていきたいと思います。